3-13. 無用の長物じゃない!〝盲腸”は腸内細菌のための重要な臓器

腸と腸内細菌

IgA抗体と「虫垂」の深い関わり

大阪大学教授の竹田潔さんの研究グループは、IgA抗体と「虫垂」に深い関わりがあることを見つけました。

虫垂といえば盲腸の下にひょろひょろと伸びた、あの小さな部分です。
一般的には、「虫垂炎=モウチョウ」と言われるため、「モウチョウ」と呼んだほうがお馴染みかもしれません。

これまで、〝要らない臓器“と思われていた虫垂が 、IgA抗体を生み出すために、重要な役割を果たしていることが浮かび上がってきました。

一般に、無菌状態で育ったマウスには、IgA抗体を出す白血球がほとんどいません。
これを菌がいる普通の環境に移してやると 、IgA抗体を出す白血球が急激に増えていきます。

竹田さんの研究グループでは、無菌マウスの「虫垂」を切除してから同じ実験を行いました。
すると、虫垂がないマウスは菌がいる環境に移ってもIgA抗体を出す白血球がうまく増えないことがわかりました。
そして、最終的に定着する腸内フローラのバランスが大きく乱れていることも明らかになりました。

じつは、虫垂の中には白血球が集まる特別な場所、虫垂リンパ組織があります。
この場所で、白血球たちは腸内にどんな細菌がいるかを〝学習“し、その細菌をターゲットにしたIgA抗体を作れるように成長していきます。
いわば、〝白血球の学校”のような場所だったのです。

このことを踏まえて、先ほどの実験を振り返ると次のように理解できます。
無菌のマウスでは、腸内に細菌がいないため、学習が行われずIgA抗体を出す白血球が生まれません。
菌のいる普通の環境に移されると、腸内に細菌が増え、虫垂で白血球がこれを学習、細菌に合わせたIgA抗体を出しはじめます。

ところが、虫垂という学校を切り取ってしまった場合、菌が入ってきても白血球の学習は行われず、IgA抗体を出す白血球が生まれないのです。

無菌のマウスを、菌がいる普通の環境に移す実験は、赤ちゃんが腸内細菌を獲得していくのと同じプロセスを再現しています。
人間の赤ちゃんも、虫垂で細菌を学習しながら、どんなIgA抗体を出すべきかを決めていくのだと考えられます。

つまり、私たちの体が腸内細菌を選ぶときには、大きくふたつの段階があると言えます。
人類と共に生きる細菌の大枠を決める「遺伝子」と、虫垂で行われる「学習」です。

遺伝子が決めた大枠の中で、さらに細かくどんな菌を選ぶのかは、私たちが生まれたあとに、虫垂リンパ組織のなかで行われる学習によって決められていきます。
腸内フローラに個人差があるのは、学習された内容が一人ひとり、違っているからです。

 

ところで、私は「虫垂」を切っちゃったけど大丈夫かな、と思われた方もいるのではないでしょうか?
じつは、取材班の中にも1名おります。

竹田さんに聞いてみると、「発達段階では重要かもしれないが、ある程度成長してから切除しても、ほとんど影響ないのではないか」とのお答えでした。
すでに白血球が学習を終えているから大丈夫だろうというのです。

また、たとえ子どものころに切ってしまったとしても、白血球の学校となるリンパ組織は小腸にも存在するので 、IgA抗体がまったく作られない、というわけではなさそうです。

ただ進化の観点で考えると、虫垂を理由もなく切り取ってしまうことは避けた方がいいと言えます。
虫垂炎は若い人に起こりやすく 、一昔前までは死に至る病でした。

虫垂がもし、生存のために何の役にも立たないとしたら、こんな危険な部位は急速に退化するはずなのです。
それにも関わらず、いまだに虫垂が退化せず残っているのは、不利な点を補って余りあるだけの有利な点があるからだと考えるのが自然です。
それが腸内細菌と関係しているとしたら、画期的な発見と言えるでしょう

タイトルとURLをコピーしました